私は1988年から約10年間、玄クリニック院長であり故・玄ウヒャン先生(脳外科専門医)と共に、主な初期症状が夜盲(とり目)で、遺伝性疾患とされている網膜色素変性症の患者約300名に対する鍼治療に携わり、その客観的データを検証するという貴重な経験を積むことができました。
本疾患の初期症状は、暗所で視認しにくくなる夜盲症ですが、次第に昼間の視力も低下し、視野が狭くなっていきます。一般的には進行は緩やかとされていますが、個人差が大きく、社会的失明(矯正視力0.1以下)に至るケースも少なくありません。
また、白内障、黄斑部疾患、眼振などの合併症を発症することもあります。
発生学的には、脳細胞・視神経・網膜の順に連なる薄い膜状の視細胞に異常が生じ、網膜が萎縮していく疾患であり、脳神経と同様、一度生じた網膜病変の改善は困難とされています。多くの場合は緩徐に進行しますが、失明に至ることもある難治性疾患です。
現在のところ、確立された有効な治療法はなく、人工網膜、再生医療、遺伝子治療などの研究開発が期待されています。
ビタミンA、緑内障点眼薬レスキュラ、高血圧治療薬ニバジールなどにより進行をわずかに遅らせる可能性が報告されていますが、明確な治療効果を示す薬剤は存在しないのが現状です。
このように有効な治療法が確立されていない疾患に対し、定期的な鍼治療を継続した結果、「歩行が楽になった」「新聞の文字が読みやすくなった」「妻の顔がよく見えるようになった」など、多くの患者において主観的な症状改善が確認されました。
さらに、病気の進行に伴って現れる頭痛、眼精疲労、羞明、充血などの諸症状が軽減されたことから、鍼治療は網膜色素変性症の進行予防および合併症に対して、一定の効果を有する可能性があると考えられます。
鍼治療の効果に関しては、1990年の韓日眼科学会セミナーをはじめ、読売新聞、週刊宝石、韓国・東亜日報などに掲載された記録があります。
【緑内障】と【網膜色素変性症】は、【糖尿病】と【腰痛】ほど病態の異なる疾患ではありますが、共通点として、いずれも視神経の異常により視野が狭くなる疾患であり、鍼治療による改善が期待されます。
一般的な治療では、網膜色素変性症には眼底血流を改善する目的で血管拡張剤が使用され、緑内障には眼圧を下げるため末梢血管収縮作用をもつ降圧薬が投与されるなど、治療法は全く異なります。
しかし、鍼治療の特性を活用することで、疾患名や治療法が異なる場合でも、神経を賦活する作用により治療効果が期待できます。
眼疾患に使用した主な経穴は、百会、人堂、太陽、球後、合谷、足三里、三陰交です。
また、生薬は柴胡・桂枝を含む処方に加え、血液循環の改善に効果的な生薬を用いました。
当院院長は、長年にわたる臨床経験と研究をもとに、鍼灸医学・経絡理論・刺鍼技術に関する専門書を多数執筆してまいりました。
著書では、経絡・経穴の理論的再検証、刺鍼技術の科学的考察、体質・症状別の臨床応用などを体系的に整理し、経験医学と科学的視点を融合した独自の鍼灸理論を提示しています。
また、初心者から専門家まで幅広く活用できるよう、実践的かつ再現性の高い内容構成を重視しています。
これらの著作は、鍼灸臨床の質的向上と、東洋医学の現代的理解を目的としたものであり、臨床・教育・研究の各分野において高く評価されてきました。
当院の治療は、これらの理論と臨床知見を基盤として行われています。
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